環境問題・社会問題は,既存の教科や研究領域を大きく越えて相互に複雑に結びついています。ある問題への改善策が,別の問題を引き起こしてしまうこともあります。つまり,限られた研究領域や狭い空間範囲,短い時間スケールだけにとらわれていては,課題解決がうまく進まない,場合によっては決定的な誤りを生む可能性さえある,ということです。「持続可能な社会」の実現に向けて,現代を生きる私たちには,自然と人文の諸事象の相互関係を総合的,俯瞰的に捉え,そのなかで守るべきもの,改善すべきものを導出する力が求められます。
本講義では以上を踏まえ,SDGsおよび2030-Agendaの概要と淵源・課題等について解説するとともに,世界が抱える気候変動,自然災害,環境汚染,貧困・格差,社会対立といった重大な問題の関わりを,とくに日本を含むアジア地域に焦点を当てて総合的に考えます。中でも日本,中国,モンゴル,チベットといった諸地域を主に事例として掘り下げ,自然環境と人間社会の関係性や,SDGsが扱いきれていない伝統文化や「地域の知」,開発・発展のあり方,宗教や民族をめぐる諸課題との関係等を扱います。学生には,それぞれの専門分野に進む前に,分野横断的に考える視点を獲得してもらうことを期待しています。
関連して,国内外の実務者・研究者をゲストに招いたセミナー,映像資料の視聴,学生同士の議論も適宜取り入れ,分野横断的・学際的な視点を養うことを目指しています。授業後半には「SDGsを自分事として再考する」を目的に,東大における環境共生や包摂,多様性に関する課題と改善をテーマとした履修学生による発表会とディスカッションを実施しています。
【担当:原,永田淳嗣(教授)(本学部広域科学専攻 人文地理学教室)】
ゲストスピーカー
2021年度Aセメスター
・Dr. Richa KANDPAL(JSPS-UNU Postdoctoral Fellow, Institute for Advanced
Studies of Sustainability, United Nations University/国連大学サステイナビリティ高等研究所)
「Issues of sustainability in India and SDG localization in Asia-Pacific」
・高見邦雄氏(認定特定非営利活動法人 緑の地球ネットワーク 副代表)
「黄土高原での緑化協力 お互いに顔のみえる協力を実現」
2020年度Aセメスター
・高見邦雄氏(認定特定非営利活動法人 緑の地球ネットワーク 副代表)
「黄土高原における草の根環境協力の歩み」
・丹羽朋子氏(国際ファッション専門職大学 講師,国立民族学博物館 共同研究員)
「切り紙アート『剪紙』に表された黄土高原の暮らしとコスモロジー」
全学自由研究ゼミナール「自然環境と農業農村から考える東アジア研究」 (~2020)
【担当:原,永田淳嗣(教授)(広域科学専攻人文地理学教室)】