太田邦史
東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長 教授
本日は教養学部70周年を記念する教養教育高度化機構のSDGsシンポジウムにお越し頂き、誠にありがとうございます。
SDGsは、もともとインドのノーベル経済学賞受賞者アマルティア・セン(Dr. Amartya Sen)が打ち出したケイパビリティ(潜在能力)という概念に淵源を持ちます。センは一人ひとりの生き残っていく能力を最大限に発揮できる状態を保障することが大事だと訴えました。SDGsの「人間の安全保障」という考え方に近いものがあります。
2019年に亡くなられた緒方貞子先生も、国家中心の安全保障に代わる概念として、さまざまな
脅威から人間を守る「人間の安全保障」の重要性を指摘されました。さらに「人間の安全保障」を推進していくためには日本の寄与がかなり大きく、日本のさまざまな機関も積極的に取り組んでいると評価されていました。
最近は企業においてSDGsが注目され、企業勤めの方でSDGsのバッジを着けている人が増えてきました。ちょっとしたブームのようになっています。現在、世界の投資はESG投資が中心になりました。SDGsを実現するためにどれだけ貢献したかによって、その企業に対する投資金額が変わります。世界の投資額総額の26.3%、金額にして約2500兆円がESG投資です。企業価値を高めるためにはSDGsへの取り組みが欠かせません。
大学にとってもSDGsは非常に重要です。私は以前、大学ランキングに関わる対策に取り組む仕事もしていました。世界大学ランキングは英国の高等教育専門誌「THE(The
Times Higher Education)」が作成しているのですが、 その「THE」が近々、それぞれの大学が、SDGsにどの程度の貢献をしたかというイノベーションランキングをスタートさせると聞きました。大学も企業と同様、SDGsを真剣に考えて取り組んでいかなければいけません。
教養学部は、人間の安全保障やジェンダー、環境などの研究部門が包括的に存在しているユニークな部局です。70周年を契機に、いっそうSDGsを推進していきたいと強く考えています。来週、外部の評価委員の方々に教養学部の運営に関してご意見を頂く会議が予定されています。その主要な議題がSDGsで、ジェンダー、人間の安全保障、環境の3つの角度から、ご意見を頂戴することになっています。私の任期中の最重要ポイントがSDGsです。今後もSDGsの役割が大きくなることは間違いありません。本日も、ぜひ積極的な討論・議論を頂ければと思います。